ナイスキャッチィ〜♪

前出の「古畑」の同じ回で、市村のこんなセリフがある。「この音はDのシャープ。(違う)この音はEのフラット。」
これを聞いて多少音楽に知見のある人は、なんだどちらも同じ音のことを言ってるじゃん、さては脚本家は音楽に関しては素人だな、と思ったかもしれない。
しかし実は、D#とEbは同じ音では無い。
この2つの音が同じなのは“12等分平均律”上でのこと。
これは器楽演奏などのために1オクターブを無理やり12に割り切ったもの。
ところで和音のハーモニーはある音に対して整数倍の振動率の音が重なることによって成立する。
例であげるとC(ド)に対しての完全5度のG(ソ)が2:3の割合、C(ド)に対しての長3度のE(ミ)が4:5の割合になっている。
この整数倍の振動率による音律を“純正律”と言う。
12等分平均律はご都合音階のため、この振動率が合っていないのだ。
つまりシビアな絶対音感の持ち主は純正律で和音を判断するため、12等分平均律による和音を受け入れられないのである。
この他にも低音部はより低く、高音部はより高くチューニングするピアノの音や、ルーズな音階そのものが持ち味である雅楽などを聴いていると気持ち悪くて仕方が無いらしい。
ね、これだけ聞くと絶対音感なんか無くてよかったぁと思うでしょ?
おいらももちろんそんなものはかけらも持ち合わせていない。
だからとっても幸せなのだ(はっきり負け惜しみ!)。
次回は「絶対音感」の話になると取り上げなければならない「相対音感」について。

おまえらそれでもジャズのつもりが?

絶対音感があることにより弊害が生じる場合もある。
まず日常に溢れているあらゆる音が全て音階で聞こえてしまう。
TVドラマ「古畑任三郎」をご覧になった方なら記憶にあるかもしれないが、市村正親演じる絶対音感の持ち主である犯人が、殺人現場で雨音と水槽のポンプのモーターが不協和音に聞こえて気分が悪くなりそうになるシーンがあった。
しかし、絶対音感マスターの誰もがそれで困ったりはしないようで、おいらの友人は一度にいくつもの音が同時に鳴ってもちゃんと聞分けられるが、日常生活で周りの音が気になることは無いと言う。
そしてもう1つ、シビアな絶対音感の持ち主を苦しめるのが「和音」の響きに違和感を持ってしまうという症状だ。
次回はこれに関して詳しく書いてみる。

カマキリ拳法!カマキリ拳法!

スウィングガールズトロンボーン担当、小林陽子役の辰巳奈都子は「絶対音感」の持ち主なのだそうだ。
絶対音感」とは何か?
今鳴っている音が何であるか耳だけで聴きわけられる能力のこと。
つまりこの音はレだよ、と音階で認識できれるわけだ。
絶対音感は幼児期から楽器に慣れ親しむことによって自然に身につくものらしい。
およそ7歳くらいまででその力が形成され、それ以降の年齢になってからは努力でマスターできることは無いという。
では絶対音感があるとどんなことができるのか?
おいらの思うところ普通にピアノを習ってましたくらいのレベルでは、せいぜい一度聴いた曲をすぐにその場で再現して弾いてみせるくらいが関の山だと思う。
たとえばすぐに譜面に起こせると言っても、譜面を書くスキルはまた別の物だし、スキルがあっても勘所のいい人間なら手元に楽器があれば多少手間が増えるくらいで譜面に起こすのはわけなく出来る。
しかし、しっかりとした楽理を持ち、コードプログレッションやらコードサフィックスにかなり深い知見を持つ人間だと絶対音感の利用価値は格段に上がる。
もっともかなり音楽センスがあり、脳内アレンジがこなせないようだと結局は音程の判別機以上の働きはしないだろうが。

全員胴体切断

スウィングガールズ」のメンバーの中で楽器演奏に関して一番高い評価を受けているのが、ドラムス担当の豊島由佳梨だ。
一応打楽器はやったことがあるとはいえ、ほとんど初心者だった彼女がきちんと4ビートを叩いていることは確かに驚愕に値する。
楽経験者のファンの中には「プロでもああは叩けない」などと言う人もいるが、実はわかりにくいところで手を抜いている。
それはバスドラムだ。
シンプルな頭打ちの曲はさておき、ハネ具合のきつい曲にいたってはほとんどキックが入っていない。
スウィングジャズ全盛の頃はまだバスドラもタムの一部みたいな扱いで、近代音楽のように延々パターンを刻む曲は多くなかったはずだが、それにしても同じリズムセクションのボトムを支えるベース弾きのおいらからすると聴いていてなんとも物足りない。
ただ、他の楽器はハイファットさえ聴いていればリズムキープはできるだろうから、演奏する分には特に影響は無いだろうけどね。

マイ ラブリー コンピューター

サックスは管の部分が先から裾に行くに従って広がっていく円錐形をしている。
これは音をよく広がるようにする以外にも、サックス独特のあの鼻にかかった肉声のような音色を作る目的もある。
あまり知られていないことだが、実はクラシック用とジャズ用のサックスはこの管の広がりの傾き=テーパーが違っている。
クラシック用は他の楽器とのアンサンブル重視でテーパーが小さくストレート管に近い。
ジャズ用はソロも取るためアクのあるジャギジャギした音が出るようになっている。
またマウスピースの形もクラシック用とジャズ用で違う。
さて、サックスを含むほとんどの管楽器は移調楽器と言い、出しやすい音程に合わせて譜面に実際に出ている音と違う音を書き込んでいる。
だからたとえばピアノやギターしかやったことの無い人が、知識も無くそれら譜面に合わせて音を出したらとんでもないことになってしまう。
アルトサックスとバリトンサックスはE♭の移調楽器で実音より長6度高く、テナーサックスはB♭の移調楽器で実音より長9度高く記譜する。
余談だがトランペットやトロンボーンも移調楽器で、トランペットはいろいろ種類が多いけど一般的にはB♭の移調楽器として記譜し、トロンボーンに関してはなぜか移調せずに実音で記譜している。

新品買えってか?

スウィングガールズ」を見て楽器をはじめた人の一番人気が、やはり主人公の上野樹里が担当したサックスだ。
劇中で友子が「35万(円)!」と言っていたように新品のサックスはそうホイホイ買えるものではない。
ヤマハの楽器レンタルだとアルトサックスが新品で月6000円ちょっと、中古だと4000円程度で借りることができる。
中古と言っても映画のようにキーがもげたりバラバラになったりするような代物ではなく、ちゃんとリペアされているので安心だ。
練習場所さえ確保できるのであれば飽きるまで吹いてみるのも一興だ。
ということでサックスについてのうんちくをあれこれ紹介してみよう。
サックスはベルギー人のアドルフ・サックスという人が発明した歴史の新しい楽器で、正式名はサキソフォンという。
見た目は金管楽器だが、実はケーンと呼ばれる芦で出来たリードを使って音を出す木管楽器で、金管木管の中間の音が出てくる。
映画ではアルト、テナー、バリトンのサックスが吹かれていたが、その他にもソプラノ、ソプラニーノ、バス、コントラバスもある。
リードは7種類の硬さがあり、初心者は柔らかいものを使い、一般的には慣れていくに従って段々硬いものに変えていく。
トランペット、トロンボーンに比べて演奏は容易で、それはフィンガリングがリコーダーと似通っているから。
キーを通してタンポと呼ばれる蓋を開け閉めして音程を調節する。
今回はこんなところ。
続きは次回!

好きだ好きだ好きだ

スウィングガールズ」のようなビッグバンドジャズにおいてギター、ベース、ピアノ、ドラムスのリズムセクションは地味な存在だ。
その中に於いてルックスの良さで人気が高かった水田芙美子の影響なのかベースをはじめたいと思っている人が意外と多かったのは嬉しいことだ。
彼女のベーススタイルは完全なロック調、ピック弾きが圧倒的に多く、指引きもツーフィンガーではなく中指1本をピックの代わりに用いている。
同じベーシストでありながらこの辺りはまったく分野が違っておいらには何も言いようがないが、「SingSingSing」で一部スラップで弾いている。
サントラではしっかりと確認できるプルはライブではフレーズを変えているようで聴き取ることはできない。
もっともベース本体を腰骨の位置に置くあのフォームはスラップ奏法には向いていない。
スラップはベースを胸の高さに構えるのが基本だ。
水田のような姿勢では手首の回転に余計な負荷がかかりすぎて、スラップの醍醐味でもあるサンピングによる早いパッセージはまず無理。


ところでスラップ奏法は以前日本だけでチョッパー奏法と呼ばれていた。
黒人ベーシストのラリー・グラハムが自分のバンドのドラマーがやめてしまったため、リズムの要としてバスドラの代わりに親指でのサンピングを、スネアの代わりに人差し指でのプルを用いたのがはじまりだそうだ。
日本人ベーシストで最初に弾いたのは誰かというのは諸説あるが、ドリフターズのベーシスト、いかりや長介であるという説は間違いだ。
彼がやっていたのはただの親指奏法であり、スラップのように弦に叩きつけてはいかなった。
親指奏法自体は昔から存在し、海外ではこの奏法で名を馳せた超有名ベーシストが何人もいる。


シンセベースが急激に台頭し、現在はルート8分弾きピックベースが全盛の国内において、スラップを見る機会はぐんと減ってしまった。
水田がもう少しスラップの魅力を「スウィングガールズ」の中で示してくれたら、またムーブメントが起こったかもしれないのに……残念だ。