好きだ好きだ好きだ

スウィングガールズ」のようなビッグバンドジャズにおいてギター、ベース、ピアノ、ドラムスのリズムセクションは地味な存在だ。
その中に於いてルックスの良さで人気が高かった水田芙美子の影響なのかベースをはじめたいと思っている人が意外と多かったのは嬉しいことだ。
彼女のベーススタイルは完全なロック調、ピック弾きが圧倒的に多く、指引きもツーフィンガーではなく中指1本をピックの代わりに用いている。
同じベーシストでありながらこの辺りはまったく分野が違っておいらには何も言いようがないが、「SingSingSing」で一部スラップで弾いている。
サントラではしっかりと確認できるプルはライブではフレーズを変えているようで聴き取ることはできない。
もっともベース本体を腰骨の位置に置くあのフォームはスラップ奏法には向いていない。
スラップはベースを胸の高さに構えるのが基本だ。
水田のような姿勢では手首の回転に余計な負荷がかかりすぎて、スラップの醍醐味でもあるサンピングによる早いパッセージはまず無理。


ところでスラップ奏法は以前日本だけでチョッパー奏法と呼ばれていた。
黒人ベーシストのラリー・グラハムが自分のバンドのドラマーがやめてしまったため、リズムの要としてバスドラの代わりに親指でのサンピングを、スネアの代わりに人差し指でのプルを用いたのがはじまりだそうだ。
日本人ベーシストで最初に弾いたのは誰かというのは諸説あるが、ドリフターズのベーシスト、いかりや長介であるという説は間違いだ。
彼がやっていたのはただの親指奏法であり、スラップのように弦に叩きつけてはいかなった。
親指奏法自体は昔から存在し、海外ではこの奏法で名を馳せた超有名ベーシストが何人もいる。


シンセベースが急激に台頭し、現在はルート8分弾きピックベースが全盛の国内において、スラップを見る機会はぐんと減ってしまった。
水田がもう少しスラップの魅力を「スウィングガールズ」の中で示してくれたら、またムーブメントが起こったかもしれないのに……残念だ。